🌟short story writing📚💻📝

気ままに短編小説を書いています。

2022-01-01から1年間の記事一覧

灯のあるところ

乾浩市は三輪自転車の速度を緩め、喫茶店の駐車場の脇に停まる。店内に入ると、目の前に雑誌が置いてある棚がある。適当に一冊を抜き取り、いつもの窓際の席に座る。「乾さん、こんにちは。ホットでいい?」見慣れた店員が声をかけてきたので頷く。キツネ顔…

飼育される女

あかん。飲み過ぎてもうた。何年かぶりに大学時代のサークル仲間と飲み耽った。立ち飲み居酒屋を何軒かハシゴしたあと、ショットバーで飲んだラム酒で完全にノックアウト。今のところ吐き気は催さない。皆と別れたあと、俺はフラフラとした足取りでタクシー…

黄色の家

恐る恐るアトリエの扉を開けると、作業台の上に乱雑に置かれた食材が目に入った。いちじくとパン、チーズとソーセージ、ふかしたジャガイモ。ワインボトルとグラスも何本か並んでいる。クロスの柄は、目が覚めるようなオレンジと白のギンガムチェックだ。部…

わたしの友達

帰宅して、制服姿のままベッドに寝転んだ。天井にある丸いシミを見つめながら、鞄を床に投げた。このまま夜まで寝たいな。そう思いながら枕に顔を埋めると、耳慣れた声が聞こえてきた。 「楓ちゃん、おかえりなさい。」 声の主は、ベッドの横にあるナイトス…

十歳の誕生日

うちには包丁が無い。 もしかしたらどこかにあるのかもしれないけれど、探したことはないし、ママが使っているところを見たことがない。うちにはハサミがあるから困ることはない。持ち手が大きい調理用ハサミで髪を切ったり、爪を切ることもできる。わたしは…