🌟short story writing📚💻📝

気ままに短編小説を書いています。

2018-01-01から1年間の記事一覧

心音

新宿の高層ビルを見渡しながら、広い公園をあても無く散策する。新宿という地名がつくのに、ここは都会の喧騒が無く、野鳥の鳴き声や梢の揺れる音が耳に届く。なんだか、透明のフィルターに囲まれたような場所だ。僕は休みの日にここへ訪れることを習慣にし…

ノルウェイの森

その公園の中央に位置する噴水の周囲は、円形の広場になっていて、いくつかのベンチが等間隔に置かれている。夕闇に染まる空の下。僕はベンチに座り、ギターの弦に指を絡める。週に二、三日くらいの頻度で、誰に聴かせるわけでもなく、音を空に放つこの時間…

ポリネーター

自分で動くことの出来ない植物は、子孫を残す戦略として、「花」を利用する。花の色や形や香りが昆虫を誘い、花粉を付けさせ、他の植物へ受粉させるように巧妙に仕向けている。このような昆虫たちはポリネーター(Pollinator)と呼ばれる。送粉者、と訳され…

もうひとつの抽斗

夏海は、「地球の歩き方」を眺めることが好きだ。図書館で借りた「地球の歩き方」を何冊か机に置き、赴くままにページを捲りながら、あらゆる国の風景を想像することが、夏海にとって心が解放される時間だ。夏海と同じ十四歳の女の子が、中国やインドやオー…

チェリー一夜

赤、青、黄のスポットライトがステージを照らし、軽快なサウンドと、ボーカルのハスキーボイスが空間に響き渡る。あたしはチーズとクラッカーを頬張りながら、無意識のうちに肩を揺らせていた。セカンドボーカルを担う、若い娘のデュオが履く白いハイヒール…

花柄

深夜零時を過ぎた頃、僕はゆっくりとマンションの扉を開け、静かに靴を脱ぐ。忍び足でリビングへ向かい、ソファに視線を向けると寝息をたてる聡さんが横たわっていた。ナイトスタンドの微かな灯りが、聡さんの疲れた寝顔を照らす。聡さんの眠りを遮りたくな…

ミルキーウェイ

「千佳さん、香水つけてる?」 エステの最中、アキラは重たげな瞼をうっすら開けて、呟いた。「香水じゃなくて、ボディローションをつけてる。まだ、使い始めたばかり。」 「甘いミルクの香りがして、いつもの千佳さんと違う感じがする。」毎晩、シャワーを…

日曜日の食卓

手作りのトマトソースをぐつぐつと煮立てている鍋の中へ、表面だけ焼き目を付けた半生のハンバーグを入れる。ハンバーグに混ぜ込んだ玉ねぎのみじん切りは敢えて炒めず、シャキシャキ感を残した。隠し味の砂糖をひとつまみ、そして固形のコンソメスープを入…