🌟short story writing📚💻📝

気ままに短編小説を書いています。

日曜日の食卓

手作りのトマトソースをぐつぐつと煮立てている鍋の中へ、表面だけ焼き目を付けた半生のハンバーグを入れる。ハンバーグに混ぜ込んだ玉ねぎのみじん切りは敢えて炒めず、シャキシャキ感を残した。隠し味の砂糖をひとつまみ、そして固形のコンソメスープを入れ、もう数分煮込めば出来上がり。私の母の得意料理を、久しぶりに作りたくなった。実家の家族は、これが大好きだった。

 日曜日は、夫が家にいるから、いつもより早めに夕飯の支度をする。私は、煮込みハンバーグから滲み出るアクを丁寧にすくい取り、仕上げに塩コショウを少し加え、味を整える。リビングに視線を向けると、夫がテレビの論戦番組に、娘の理紗がスマートフォンの画面を見ながら、ソファに横たわっていた。夕飯が出来たことを伝えると、二人は緩慢な動きでダイニングテーブルへ移動する。
「今日は煮込みなんだね。」
夫の声に、やや落胆の響きが含まれる。彼は煮込みより、焼いただけのハンバーグが好きなのだ。理紗は、スマートフォンをテーブルの上に置き、画面をちらちら見ながら黙々とご飯を食べる。今年の春、中学校入学を機に、スマートフォンを買い与えた。すると、理紗は家の中で四六時中その画面を覗きこむようになった。最初のうちは何度も注意したが、一向に言うことを聞かない。次第に、注意することをやめてしまった。画面と食卓の間で目を泳がせる理紗が、ふと箸を止めた。
「ママ、この玉ねぎ、生っぽいんだけど。」
「煮込みの時は炒めないの。お鍋でコトコト煮たほうが、玉ねぎの甘味が出るのよ。」
ふーん、そうなんだ、と理紗は少し首を傾げたが、その後は何も言わず、箸を進めた。夫はハンバーグを半分以上食べた後、席を立って、冷蔵庫からソースを取り出した。そして、残りのハンバーグにぐるっとソースをかける。
「こうすると、ご飯に合うよね。」

 私は幼い頃から母と台所に立つことが好きだった。様々な食材が、母の手によって自由に変化する光景は見飽きることがない。やがて娘が生まれ、いつか親子で料理を作りたい、そんな夢を抱き続けた。だけど、理紗は全く料理に関心を示さない。彼女は夫に似て、ソースやマヨネーズなどの濃くて単調な味ばかりを好む。私が料理にどれだけ工夫を重ねても、ただ黙々を食べるだけで、その表情は乏しい。

 食卓に並んだ料理が綺麗に無くなり、夫と理紗は、再びリビングのソファに戻る。私は席を立ち、まな板の上に半分残った玉ねぎを更に細かくみじん切りにする。これでマリネ液を作ろう。私が初めてみじん切りに挑戦したのは、理紗くらいの齢だった。玉ねぎの縦横に切れ目を入れ、おそるおそる上から下へ刃を降ろす。すると、不揃いながらも小さな四角形の玉ねぎがころころと現れ、驚きと喜びを感じた。うっかりその手で目をこすり、大変な思いをしたっけ。
「…ママ、どうしたの?」
冷蔵庫のジュースを取りに来た理紗が、私の顔を覗きこんだ。私は慌てて頬を濡らす涙をエプロンで拭う。
「みじん切り、やり過ぎちゃった。」
まな板の上には、切り過ぎた玉ねぎが、押し潰されたような状態で広がっていた。